さくらすく│デレ期

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デレ期

 一日の仕事を終えて、佐伯とともに部屋へと戻る。会話のひとつもないまま部屋につき、玄関をあけてすぐ佐伯に抱きつかれた。
 一度まわされた腕はかんたんに外すことが出来ない。抵抗をすればすぐにでも腕から抜けだせるが、御堂はなすがまま身体を貸す。
 抱き締める腕の中で御堂は、目を閉じた。微動だに動かず静かにしていた。
 残業をして帰った日は、必ずと言っていいほど抱き締められていた。まるで一日の充電とばかりに御堂の身体を求めてくるのだ。
 同じ職場で同じ部屋で生活していても、この男は満足どころか欲求不満になるようだ。
 だが、セックスとは違う欲求のように感じられた。
 そろそろ離してくれと思っていると、不意にまわされていた腕に力がはいった。瞼を開けて強く抱き締める佐伯の様子を伺う。
 抱きついていて顔は見えないが、セックスを求めているようには見えない。表情が見えないもどかしさに、目を伏せ目がちにさせて、気づかれないように小さく溜息をついた。
「今夜はどうするんだ? 疲れているならケータリングで済ませるが」
 このままでは埒があかず、しぶしぶ声をかける。
「ええ、そうします。頼んでおいてください」
 耳元ではっきりとした声が聞こえ、不安になりかけていた心が急速に和らいでいく。
 だが、スーツの上着から煙草と薄れてきたフレグランスの香りが性的なフェロモンへと変わりはじめ、御堂は股間に熱が集中していくのがわかった。
 これ以上は耐えられない。変なことを口走るまえに離してほしくて、口を開けかけた。
「着替えてきます」
 それだけ言い残して、佐伯は御堂から離れた。まるで抱き締めていなかったかのような態度に呆気にとられた。
 さっさと一人で自室へといく佐伯の背中から目が離せない。広くて逞しい男の背を名残惜しみながら玄関の扉に背を預けた。
 数分しか抱かれていなかっただろうが、すごく長い時間抱き締められていたような錯覚を覚えた。
 抱き締められただけで、下半身が反応したことも関係しているだろう。いつもなら勃起はしない。それだけに羞恥心が煽られ、なかなか収まる気配がない。
 最近、仕事が立て込んでいるせいか佐伯は疲れ気味だった。だからと言って、御堂が疲れていないというのは嘘になる。
 会社と部屋での二重苦で、御堂は休まるときがない。
 日を追うごとに色気づていく佐伯に動揺が隠せずにいた。
「私はなにを考えているんだ」
 佐伯が居なくなっても身体を抱き締めていた腕の感触がとれない。いやらしい妄想が頭の中に現れるまえにケータリングを頼むことにした。
 上着の内ポケットより携帯電話を取りだして、いつも利用している店の電話番号に電話をかけた。

***

「佐伯……っ、いい加減離せ…」
 左右前後と人で混雑したエレベーターの中で、御堂は佐伯にまた身体の自由を奪われていた。まだ昼にもなっていないのに、背を抱く手はいつもより強い。
 取引先へのところから帰ってすぐのことだ。目と鼻の先にAcquire Associationがあることさえ構わず、佐伯は抱擁にひたる。
 勤務時間中での密着は御堂の気を揉ませ、逸る心が落ち着かない。
 背中にまわされていた手が腰へと落ちていく。這うようにして降りていく手に意識が集中して、身体が小さく震えた。
 ご無沙汰だった性欲が、ここぞとばかりに邪魔をしてくる。
 下半身を佐伯に押し当てるような格好にも恥ずかしさがなくなりかけていた。
 密着した佐伯の身体を利用して硬くなりつつある股間をグリグリとに押さえつけているが、下着が邪魔でほしい快楽が得られず、もどかしい。
 夢中で股間を擦りつづけているのがバレるのも時間の問題だ。
「帰ってからにしろ。それからなら……君の言うことはなんでも聞く。だから−−」
 まわりを気にしながら小声でやりとりを繰り返す。だが、佐伯が身体を容赦なく押しつけ勃起を促してくる。
「まだですよ。このくらいで音を上げてもらっては困ります」
「君は……ッ! 私をどうするつもりなんだ」
 息が上がり、この状況を楽しむ身体に色を成す。素知らぬ顔でいる佐伯を瞠目した。
 エレベーターは上がっていく毎に、指定された階へと人をおろしていく。御堂たちのオフィスがある階まであと数階だ。それでも人が減る気配がない。
 窮屈になってきた身体と心に追い詰められ、まともな考えができなくなる。
「困った人だ。まわりに聞かれたいようですね」
 呆れたような口振りで佐伯は話す。エレベーターという密閉された空間にも関わらず、興味は御堂にしか注がれていない。
 腕の中の心地よさを思いだすまえに離れたい。左右をみて確認してから御堂は、ゴクリと唾を飲んだ。
「黙れ、外道。私の気持ちを踏みにじったことを後悔すればいい」
 強気な口調で言い放ったが、語尾が上擦る。
「後悔するようなことを俺がするわけないですよ。もう少しまともな嘘をついてください」
 眼鏡の奥にある目を細くさせて見透かしたような顔で見据えられた。後退りもできない場所では、抵抗も許されないようだ。
 手に汗を握って、静まらない体温と痛いくらいに射る視線から逃げたくて目を逸らした。
 それとほぼ同じくらいに、まわりにいた人が流れる気配がした。 エレベーターが次の階についたことを雰囲気で知らされる。
 腰を抱いていた腕が外されて、御堂は自由になっていた。身体も離れて今では、御堂に背を向けている。
 誰かに見られていないかとヒヤヒヤしながら、降りていく人を待った。
 やがて静かにエレベーターの扉が閉まり、佐伯と二人きりにさせて上りだした。
 中途半端に熱を与えられた身体は、静まらない。三揃えのスーツの下で、乳首が尖りきっていた。少しの振動だけでもYシャツで擦られて、もどかしい。
 見上げるようにして佐伯の背を見つめた。そして吸い寄せられるように後ろから抱き締めた。
 さっきまでの暖かさとは違う暖かさがつたわってくる。包み込まれるよりも、こうして後ろから抱き締めているほうが、精神的に落ち着く。
「今の君が嫌なわけではない。ただ……私の知っている佐伯ではない他の誰かと一緒にいるみたいで、私は嫌だ」
 耳元でボソボソと囁くように気持ちがこぼれ落ちた。
 エレベーターが目的の階につく電子音が聞こえて、御堂は我に返った。扉が開くよりまえに佐伯から離れる。
「違う。私は……私は……」
 認めたくなくて同じ言葉を繰り返す。抱き締めていた手が小刻みに震え、現実を受け入れることができない。
 動かずに突っ立っていたら、グイッと強く腕を引かれた。咄嗟に顔をあげてまえを見れば、佐伯が御堂の腕を掴んで歩いている。
 話しかけようとしても佐伯の威圧するような重い空気におされて、言葉を飲み込むことしかできなかった。


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