さくらすく│Happy Sweet Time

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Happy Sweet Time


 ホテルのスイートルームから見える夜景に目を呉れることなく、御堂は慣れた手つきでシャンパンを開けた。ホテルの部屋に備えつけられていた物だが、ラベルを見れば安物のシャンパンではないようだ。
 今日は、御堂の誕生日だった。毎年佐伯が違うホテルに予約を入れ、その都度フランス料理や和食といった三ツ星のレストランへ行く。そして豪華な食事を楽しんだ後、ホテルに来るというお決まりなコースだ。
 デートをして愛を語り合うような年齢でもなくなってきたが、愛しい人と過ごす時間に御堂は身も心も蕩けていた。
「ワインでなくていいですか?」
 グラスに注ごうとしていると佐伯がそんなことを言い出す。先ほど食事をとったばかりで飲み足りないわけではないが、ただ口の中が寂しい。
 グラスにシャンパンを注ぎ入れると小さな気泡が音を立てた。
 短く返事を返して、佐伯の分のグラスにもシャンパンを入れる。シャンパンに蓋をし、二人分のグラスを持って窓に背を預けた格好で立つ佐伯にそのひとつを渡した。
「私の為に毎年すまない。こんな……年になるまで君と過ごせると思っていなかった」
 ほんのり赤く染まった頬で、照れなのか酔ってるのかわからない言葉を御堂は言う。眼鏡の奥の瞳から目が離せず、その目がすっと細くなりわずかに佐伯が微笑んだ。
 たったそれだけなのに、胸が弾んだ。気持ちを悟られたくなくて御堂は、唇を噛んで視線を伏せた。
「なにを言い出すんですか。アレだけの量で酔わないでください」
 グラスを持ったまま佐伯は、冗談を言うように御堂をからかう。照れているのは御堂だけではないと言いたげな声が、耳から離れない。
 体温が上がるのを感じる。まるでアルコールがいきなり身体を回ったようだ。
「佐伯の言う通りかもしれない。私は酔ってる」
 照れていることを勘付かれないようにシャンパンに口をつけた。ふわりと漂う木の根の香りが、鼻先を霞んだ。口の中に炭酸が広がっていく。
 さっき食べたばかりの夕食の味さえも思い出せないほどに、御堂は緊張していた。
 佐伯とのデートは一ヶ月ぶりだった。同棲していても最近は仕事が立て込んでおり、プライベートの時間は今日までほとんどなかった。変な風に目の前の男を意識してしまい、身体が強張っていく。
「それはいけませんね」
 窓の近くに備えられたサイドテーブルにグラスを置く音が聞こえた。このシャンパンは佐伯の口に入りそうにない。
 うまく言葉がみつからないまま緊張のせいで表情筋まで固くなりそうである。
 俯いたままの御堂を上を向かすように顎に手をかけられた。抵抗するより早く、佐伯に唇を奪われた。そっと触るだけの口づけに御堂は瞠目する。
 目を見開いたまま佐伯と視線が空中で絡み合い、下半身が疼いた。
 キス如きで、取り乱す身体に気が滅入りそうになり、グラスを持つ手に力が入る。赤かった頬が、佐伯の視線を受けてまた朱の色を濃くした。
「浮かない顔だな、御堂」
 御堂から視線を逸らさずに、そっと佐伯は呟いた。耳を疑いそうになる言葉に、御堂は瞬きを数回して声を失った。
 久々のデートに心が晴れないわけがない。それなのにこの男はなにを言いだすのか。
 年末に近づけば、また慌ただしくなるほど忙しくなる。それにともないデートも互いのプライベートな時間もなくなってしまうことも御堂とて忘れていない。
 今日くらいは、羽目を外して佐伯と濃密な時間を過ごしたいと思っている。
 それなのに、上手く態度にでない。食い入るように見つめてくる佐伯から逃げるように顎を支える手を払い、佐伯に背を向けた。
「君とこうして過ごす時間は、どうしてこんなにも早いのだろうかと思っただけだ」
 シャンパンを一口飲んだだけなのに、体温が上昇し続けているせいでアルコールのまわりが速い。ふわりとした心地よい酔いが御堂を襲う。
「もっと……佐伯とこのような時間を過ごしたいだけだ」
 アルコールの力を借りて、誕生日を祝ってくれたことを遠回りに嬉しいと告げる。こんなこと素面では言えるわけがない。
 突然後ろから身体を抱きすくめられ、御堂は驚愕して首だけを後ろへ向けた。けれども御堂の口元は緩み、緊張で強張っていた顔ではなくなった。
「それだけで満足か? 俺を困らすくらいのお強請りでも十分だというのに、あんたって人は……」
 呆れにも似た声が溜息混じりに紡がれた。
 瞬時に佐伯の言葉が理解できず、御堂はグラスを持っていない方の手で佐伯の頬に手を添えてキスをした。うっすらとワインの香りが佐伯から漂い、御堂は瞼を閉じてキスをしたまま余韻に浸る。
 唇をわずかに離して、息を吸いまた口づけようとすれば佐伯が口を開いた。
「誕生日だから優しくしようと思っていたが、手加減ができそうにない」
 野獣のような目の色に変えた佐伯が雄の匂いをさせ、御堂は胸が高鳴るのを感じた。
「君が手加減をしたことなど、いまだ嘗てないじゃなか」
 くすぐったそうに御堂は笑いながら「だが、そういうところも嫌いじゃない」と付け足しす。ようやく本性を出した恋人の姿に御堂の機嫌が最高潮になる。
「あんたは変わったな」
「私だって年をとるということだ。それより私を待たせる気か?」
 佐伯の頬を撫でてやりながら、目を細めて挑発した。
 すると面食らった佐伯と目が合う。そのまま頬の筋肉を緩ませた蠱惑的な笑みを佐伯に向けた。
「年を重ねる毎に俺をおかしくさせていることも計算のうちなら、とんだ食わせ者ですよ」
 目を見開いて佐伯は、白旗あげるように困った顔で笑う。たったそれだけでもこの男に焦らされ、自分の唇を佐伯に見せつけるように舐めていた。
「自惚れるな。私の気が変わる前にその口を塞いだほうがよさそうだ」
 どちらからでもなく唇を合わせキスを貪った。


Fin
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