さくらすく│Honey×Honey

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Honey×Honey

 息を切らせて走っているとやがて足が遅くなり、歩き出す。御堂が振り返って近づいてきている太一をていた。
 なんとか辿り着くが、汗ばんだ顔と乱れた呼吸でまともに話せる状況ではない。荒い息を繰り返すのが精一杯だ。
 汗をエプロンの裾で拭っていると自動販売機が飲み物を落とす音が聞こえた。音がしたほうに視線をやれば、御堂がペットボトルの水を太一に差し出そうとしていた。
 興味がないように見せかけて、まれに感じる優しさに心が錯覚してしまう。
 想いが通じている、と。
 無言のままペットボトルを受け取ると蓋を開けて勢いよく口に流し込んだ。口から流れ出ていることも気にせず飲む。そして口から離すと頭へ残りの水をかけた。
 冷たい水が頭から流れおちて頬を伝う。
 幾分か落ち着いてから御堂に問いた。
「あれってマジ?」
 さっきのメールに書いてあったことが信じられず、持っていたペットボトルを握り締める。
 大人のエゴに付き合っていられない。
 濡れた前髪を後ろへ掻き上げて、御堂を見据えた。
 本当のことだと言わんばかりに口ごもる御堂に希望の光が見失う。いつだって御堂は、本当のことしか太一には教えなかった。
「落ち着いて私の話を聞くんだ」
 いきなり手首を掴まれ、そのままついて来いと腕を引かれる。太一は、舌打ちをしてしぶしぶついて行く。
 そして建物で日陰になっているところまで来ると御堂は手を離した。
「本当だ。来週から二週間ほどだが、出張で私はいない」
 背を向いたまま話す御堂に、目を見開いてその姿を見つめていた。
 もう何もかも信じられない。怒りと暑さで感情的になり、判断力が鈍くなる。
「はぁ? それって……また会えないってこと?」
 声が震える。潰しそうなくらいにペットボトルを握り締めて、怒りを露わにする。
「そうだ。私が戻るまでいい子で待っているんだ」
 あやすような声で話しながら、御堂は振り返る。
 そんな子供騙しで納得がいかず、唇が戦慄いだ。
「いい子……? そんな可愛い言葉で括っちゃうアンタってホント、オレを踊らすの上手いよね。もっと軽快に踊ればいい? なんならタップダンスでも踊ってあげようか」
 パンッと乾いた音が鳴った。いきなり視界から御堂が居なくなり、頬が痛く御堂が叩いたことを痛さで知る。
 唾を吐き捨てて、叩かれたことに逆上した。握っていたペットボトルを離して御堂の服を掴んだ。
「いい加減にしたまえ」
「だったら、次いつ会えるかくらい教えてよ」
 食ってかかるように御堂に迫る。
 だが、それを嘲笑うように御堂から重い息を吐かれ、歯を強く噛み合わせて音を立たせた。
「君が冷静になるまで会わないでおくとしよう」
 怯むことなく太一に説得を御堂は試みているようだ。年上の落ち着いた態度が、太一を気に入らなくさせていることを知らない。
 どう刃向かおうが御堂にとって、子猫や子犬がじゃれて遊ぶのと変わらず、動作でもなかった。
 頭にくる言葉ばかりを並べられ、逆上した頭では考えることも不可能だ。
 もう会えないということが、どれだけ辛いのかこの男に分からせたい。
「嫌だ。絶対離さないから」
 聞こえるか聞こえないかの低音で太一は呟く。
「私と会わないほうがいい。その手を離したまえ」
「オレはいつだって冷静だよ。だから会ってよ、ねぇ!」
「言って解らないようなら、お仕置きが必要だな」
 双眸を細めて、はっきりとした声で御堂は告げた。
 聞いたことがない御堂の声に怯み、掴んでいた服から手が離れていた。そして体が動かなくなる。
 太一の隙をつくように御堂が腰を屈め、目線を合わせて顔を近づけてくる。ふわりと鼻を掠めるアイスコーヒーの香りとともに、うっすらと甘い匂いが御堂からした。
 飲み物以外に何か頼んだのかと太一は思った。しかし、さっきアイスコーヒーに蜂蜜を入れたことを思い出す。飲んでくれると思っていなかった。それだけに、また嬉しくなる。
 頭に血が登っていたはずが、薄れた蜂蜜の匂いが太一を冷静にさせていく。
 キスできる距離まで近寄られ、目を逸らすことができない。
「っ……何スか、この距離」
「我慢しているのは君だけじゃない。君の気持ちは、これでも考慮している。今はこれで我慢したまえ」
 頬に触れる唇の感触にキスをされたと気づく。キスでさえも許さない御堂がしてきたキスに、驚きが隠せない。
 正常に頭が動かない。嬉しいのに声が出てこないのだ。
 はにかむような表情を御堂はわずかに残して、太一から離れていった。
「今度は、連絡してから君に会いに行く」
 それが、おあずけの意味だと知るのは御堂が駐車場から車で出て行った数分後のことになる。
 蝉の鳴く声が耳障りで、御堂の声を忘れそうになる。そして、その場で太一は耳を塞いだ。


「早く会いたいよ、孝典さん」



Fin
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