さくらすく│逢いlove遭い

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逢いlove遭い

 猫は、自ら体を擦りつけて甘える動物なのかと驚かされる。そして同時に、興味と好奇心に御堂は駆られた。
 耳に息を吹きかけるとくすぐったいのか頭を左右に振って嫌がる。喉を撫でれば、目を細めて気持ちよさそうにし、そのまま寝入ってしまう。
 どこから見ても、猫そのものの動きをする克哉に、熱くなるものが込み上がる。
 リビングのソファで、御堂の膝に頭を乗せて昼寝とばかりに克哉は眠っていた。散々、御堂に触られ疲れたというよりは、気持ちよさそうに眠っている。
 そして、その寝顔を御堂は愛おしく見下ろしていた。

***

 二日前の夜。朝から咳を繰り返す克哉のために、御堂はAcquire Associationが入っているビルの近くの薬局で風邪薬を買ってきた。医者に診せるほどの症状はなく、市販薬で治ると御堂は思っていたのだ。
 早く治って欲しいと、内に秘めた言葉を隠して。
 そして明朝、寝起きの克哉が目を見開いて、洗面台の前で突っ立っていた。その姿を新たな歯磨き粉を片手に洗面所にきた御堂を驚かした。
 髪の色と同色の三角形をした猫の耳と、尻の付け根のやや上から生えた長い尻尾。こちらも髪と同じ色で克哉に生えている。
 だが、長い尻尾が下着の邪魔をして、今にでもずり落ちそうだ。唖然とした御堂を鏡越しで気づくのは、数分後となる。
 それから二人で口論となって喧嘩をした。市販薬をどこで買ったのかだとか、どこの薬局へ行ったのかだとか。事情聴取さながらの尋問を御堂は受けた。
 咳をしていた喉のことなど忘れたかのように克哉は、声を荒げた。
 だが、すぐにその喧嘩は鎮火する。克哉の機嫌が悪くなると後ろで揺れていた尻尾が、太さと大きさを変えて立ち上がったのだ。そして案の定、御堂は驚いて声が詰まった。

***

 人間が獣化するとは、いつの時代だろうか。はたまた、幻想に夢を見すぎたおとぎ話の中でしかない作り話なのか。冗談じゃない、と口にした。
 猫のことは、御堂もまたよくわかっていない。
 喜怒までは何となくわかっても、あとは観察するしか感情を読み取れない。克哉の表情とは違う動きをする尻尾に振り回され、調子が狂った。
 今は、顎や頭に生えた猫の耳の付け根あたりを撫でていたら、おもむろに御堂の膝の上で克哉は眠り始めた。
 よほど御堂の膝の寝心地がいいのか、起きる気配を見せない。
「こんな生活がこの先、続くといいが」
 本音にも似た言葉が漏れた。
 初めは戸惑った。この先、ずっとこのままだったらと。不安だけが残っていたが、この生活に慣れてしまえば、不安は自然と消えた。
 白のワイシャツからすらりと伸びた足。尾が邪魔をしてジーンズやスラックスが穿けない。だが、下着は身に着けている。
 猫の耳に猫の尻尾と変態要素しかない今の克哉に、ノーパンは耐えられない。だからと言って、パンイチもどこか変態じみていて耐える以前の問題だった。
 ほどなくして、克哉は起きた。寝顔を見られたと言う理由からなのか、自室に引き籠もって出て来ない。
 少し遣りすぎたかと御堂は反省しながら、届いたばかりの荷物をリビングで開けていた。
 克哉がちょうど自室へ行ってからすぐ、来客を知らせる呼び鈴が鳴った。そして玄関を開ければ、宅配業社が小さな箱を手に立っておいた。それを見て、昨夜ネット通販したことを思い出す。
 玄関で物を受け取り、克哉に気づかれないよう注意してリビングへ戻った。
 ガムテープを剥がしダンボールを開けると赤い色をした首輪と鎖、そして手枷が入っていた。首輪の付属品として小さな鈴も入っている。
 中から首輪だけを出して、箱はリビングの隅に一旦片付けた。まだ中には、注文した物が入っていたが、それはまたの機会に開けることにした。
 今は、届いたばかりの首輪をつけて欲しくてうずうずする。SMで使うような真っ赤な首輪を片手に御堂は欲望のままに動き、気づけば克哉の自室の前に来ていた。
 ノックをしようかと悩んでいると、ドアノブが回る。
 どきりとして、咄嗟に持っていた首輪を後ろに隠した。首輪を持つ手に汗をかく。
 そして部屋の中から克哉が出てきた。
「どうかしたか?」
 訝しがる克哉に平然とした態度をとろうと作ったような固い笑みを向ける。
「いや、何でもない。気にするな」
 後ろ手で首輪を隠したまま一歩ずつ後退る。冷や汗が流れているのではないかと、作った笑みが崩せない。
 目を逸らすことなく克哉は見据えてくる。眼鏡の奥にある目が笑うことはない。
 後退していると後ろにある壁に背が当たり、逃げ道がなくなった。
「な、何だ…?」
「何を持っているのか知りませんが、後ろで隠している物を出してください」
「私は何も持っていない」
 咄嗟に嘘を吐いた。こうでもしないと身の危険がさらに増すような気がした。
 逸らされることのない克哉の視線に耐えきれない。少しずつ視線を泳がせながら目を伏せた。
 首輪を持つ手に力が入る。
 視線を床に向けたままでいると克哉が距離を詰めてきた。口の中に溜まる唾液を飲み込んだ。自然と体にも力が入っていき、極度の緊張状態になる。
 何をされるかわからない恐怖に、御堂は知らぬ間に襲われていた。
 だが、御堂が怖がるようなことはなかった。克哉の腕が背にまわり、そっと包み込まれた。そして抱き寄せられ、体が克哉に密着する。
「あんたも物好きだな。自分で使うのか?」
 呆れたような口調で話す克哉に、脈が早くなる。克哉の体から仄かに漂う煙草の臭いにぞくりとした。
「違う。今の君に似合うと思ったんだ」
 後ろで隠していた首輪を見つけられ、仕方なく話す。耳の近くで深い溜息が漏れた。
 早くなった鼓動が克哉にも聞こえそうで片方の手で克哉の胸を押して抵抗した。腕に力を入れて強く押す。
「こう言うことをするような男だとは、思っていなかった。これ以外にもあるんじゃないのか?」
 察しが良すぎだと口ごもりながら思い、後ろ手にしていた手を戻す。
「ああ、そうだ。よくわかったな」
 チラリと見上げるように克哉の様子を伺う。興味よりも愛想をついたと言った冷めた目で見られて、御堂は怯んだ。
 こうなる事は、分かっていた。それでも欲望がそれを認めず、御堂を突き動かしていた。
 克哉に猫の耳が生えてから、御堂は少なからず変わった。それに克哉が気づいたかは、わからない。
 そして、御堂はしばらく口を閉ざした。克哉の態度ばかり気になって、うまく言葉が出ないのだ。
「そんなにも触りたいですか」
 溜息混じりの声が、重い空気を作る。
 胸を押していた手を離して抵抗を止めると眉尻を下げた。
「触りたい。触りたくて今にでも気が狂いそうだ。君のでないと意味がない……。だが、君が嫌なら我慢する」
 ぼそりと低く呟いた。ただの独り善がりで、みっともない姿に徐々に威勢がなくなっていく。
「我慢なんて出来るんですか?」
「それは……」
 克哉の目が一瞬笑ったように見えた。その一瞬に気をとられ言葉を無くしていた。そして、いきなり手首を克哉に掴まれると腕を引かれた。
「っ……な、なにをするんだ!」
 後を追うように強引に腕を引く克哉の背を追う。何も話そうとしない克哉に焦りを感じた。目の前にある白いワイシャツに問い掛けるような顔をして、なんとか歩幅を合わせて足早で歩いた。
 そしてベッドがある寝室へ来ると乱暴に腕を振り払われる。力任せに掴まれていたらしく、手首に克哉の指の跡がうっすらと残っていた。
 鈍痛が響く手首に気を取られて、寝室に鍵が掛かったことに気づかない。


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