さくらすく│アイジンミルク

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アイジンミルク

 喉の渇きで目が覚めた。冬での乾燥で肌もがカサカサになるが、それとは違う渇き。
 外は薄暗く、まだ朝になっていない。隣で寝息を立てて眠る恋人を愛おしそうに見つめるとベッドから抜け出た。そして静かにキッチンへと向う。
 部屋の電気を点けずに勘を頼りにして歩く。しかし進む速さは普段歩く速さより遅かった。
 すっきりとした部屋で、物が下に落ちていない。綺麗に片付いた部屋そのもので転ぶどころか、躓くことなくキッチンへと辿り着いた。そして、ここでも電気を点けようとしないで一直線に冷蔵庫へいき、ミネラルウォーターが入ったペットボトルを中から取り出した。
 蓋を開けてそのまま口をつけて飲む。冷たい水が喉を通っていき、体の底から潤っていくような感じがした。
 喉の渇きがなくなるまで飲み続け、ペットボトルに入っていた水が底をついた。空になったペットボトルを蓋をしてテーブルに置いてまた寝室へと戻っていく。
 睡魔には勝てるが、今は寝ていたい気分だった。ほんのり口の中が甘酸っぱい味が広がっていたことに気付かないままベッドに入り、再び御堂に寄り添うようにして身体を横にさせた。
 明日はオフだ。身体をゆっくりと休ませて、次の日に備えようと思い瞼を閉じた。


 朝になったのか、誰かと話す御堂の声に意識がすぐに覚醒した。身体を起こしながら眠気を頭を降って飛ばし、声がするリビングへと行こうとベッドから降りようとした。
 しかし、いつもと何かが変わっていることに気付いた。声を出して驚きはしなかったが、両手を広げてしげしげと見た。
 大きかったはずの手のひらが、長かったはずの指と共に小さくなっている。腕も短く、子供のように見えた。
 何が起きたのか順を追って思い出そうとしていると寝室のドアが開いた。
「おはよう、<俺>」
 聞き覚えのある声が聞こえ、目を丸くしてその声がした方を見た。だが、姿が見えない。そして遅れて御堂がやってきた。
 身体が小さいか御堂が大きく見える。
「ようやく起きたようだな」
 わずかに笑いながら固まってベッドから動けないでいる克哉のところへ近寄ってくる。
 頭の整理ができず、混乱する頭で状況を把握しようと焦った。
「なんて顔してんだよ。それより裸で寝るなよな。起きて吃驚したじゃないか」
 ベッドに上がってきた少年とも言えた姿の見慣れた男に絶句した。シャツを着ているが、大きさがあっていない。身体が小さいからだろう、不格好だ。
 しかし、どこかで見たことがあるシャツに眉間に皺を寄せた。
「お前に言われたくない……っ! おい、それ誰の服だ」
「私のだ。何も着ないままだと風邪を引くと思ってな。少々サイズが合わないが、寒さは防げるだろう」
 自信満々に告げてきた御堂に哀れんだ。
 シャツのサイズさえも合わず、広く大きなベッドによじ登って起きたばからりの克哉に近寄ってきた。そして小学生くらいの幼さがまだ残る少年の顔を睨みつけた。
「寝呆けて柘榴が薄まった水を飲むなんて、<俺>でも疲れてることがあったんだな」
 睨まれても平気なのか無垢な笑みで笑う。その顔に益々機嫌が悪くなる。笑う少年が克哉と同じ顔を持つからだ。
 少年もまた克哉と同じくらいの体格の大きさで、見た目だけだと双子にも見えた。
 もう一人の自分と話していると疲れる。サイドテーブルに置いてある眼鏡を取ろうとして腕を伸ばした。しかし、いつもなら届く物が体格の関係で届かない。舌打ちをして取るのを諦めると小さく溜息を吐いた。
「俺をなんだと思っていたんだ。それから御堂、アンタはさっきから気持ち悪い」
 ベッドの端に座って、その光景を眺め見ては、声を出さないで薄笑みばかりを浮かべていた。
「ああ、すまない。克哉が二人もいると思うと嬉しくてな」
 まったく意味が分からない。嬉しそうな顔とは言えない御堂に頭を抱える。
 そして柘榴を薄めた水を飲んだことを思い出す。夜中に喉が乾いて水を飲みに行った覚えがある。だが、冷蔵庫に入っていたのは、ミネラルウォーターだ。開封はしてあったが、無色透明の液体だった。
 それが柘榴を薄めた水と指摘した<オレ>も何かの間違いだと克哉は胸の内で言い聞かせる。
「アンタはもう黙ってろ。収拾がつかなくなる」
 受け入れたくない現実に現実逃避がしたくなる。
 克哉を挟むようにして近寄ってきた二人に恐怖さえも覚えた。寝ている間に何を話していたか分からないが、克哉が二人いることに動じない御堂が怪しい。そして恋人の順応力を恨んだ。
「それは出来ない。これから君に要があるんだ。拒否権はない」
 サイドテーブルに置いてあった眼鏡を御堂に渡され、それを受け取って掛けた。
「孝典さんの話は、聞いておいたほうがいいと思うよ」
 間合いをつめるように<オレ>が近寄ってくる。目の前に鏡を見たような同じ顔が並ぶ奇妙な光景に冴えてきた頭が危険だとサイレンを鳴らし始めた。
 隣にいた御堂もまた何かを隠し持っているような雰囲気があり、気が抜けない。
 布団をチラリと捲り身体を見た。昨日までの身体ではなく、小さな身体が目に映る。これが現実なのかと思うと無性に腹立しくなった。
「随分と生意気な口になったじゃないか、<オレ>?」
「何を言ってるのさ? お前もオレじゃないか。中身は同じなんだから<俺>だって生意気だろ?」
 小さいからなのか口がよく回る<オレ>を目を細めてさらに睨みつけた。今日は、身体が小さいせいなのか、調子が悪い。ふだんなら口で勝てる相手でも今は、勝つどころか負けを認めざるを得ない。
 だが、白旗は上げたくない。そしてチラリと隣を見た。
「御堂さん、お仕置きをして欲しいようですね」
 やはりあの笑いをして御堂は会話を聞いていた。薄く微笑むだけの気味が悪い笑み。本人は気付いていないだろうが、目は笑わずに口だけが笑っていた。
「そんな身体で私を……? 笑わせるな。今の君には無理だ。代わりに私が君に日頃の感謝を込めて抱いてやろう」
 いつから手に持っていたのか御堂は手枷を見せてきた。ごくりと生唾を飲み、嫌な汗が頬をつたう。
 手枷を見せつけられただけで動揺が隠せない。目の前にいる<オレ>は、すべてを見透かした目を細めて無邪気に笑っていた。



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