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SEDUCE

 決まった時間に必ず鳴るアラームの音。電子音をリズムよく鳴り響かせ、その音で御堂は目を覚ます。眠い目をこすりながら腕を伸ばしてアラームを止めた。
 明け方でもまだ朝日は出ていない。暗闇の中でベッドからそっと抜け出す。
 いまだ寝息を立てて眠る佐伯の寝顔をみて小さく笑った。わずかに残ったあどけない表情は、昼間に見ることはできない。眼鏡の下に隠されたこの顔を知るのは御堂だけだ。
 佐伯を起こさないように唇に触るだけの口付けを落とす。乾いた唇が重なる。
 このまま舌を入れた深いキスをしたら目を覚ますのだろろうか。そんな悪戯を思いついたが、佐伯の唇をペロリと舐めて身体を離した。
 音を立てないように、ベッドから抜け出る。唇に佐伯の唇の感触が残っており、その感触を確かめるように指で唇を触った。
 起きる気配を佐伯はみせない。足音を忍ばせて歩く。
 そのまま浴室へと向かおうとした。けれども足取りが重く、うまく歩けない。御堂は内心で悪態を吐いた。
 大学時代から付き合いがある佐伯の友人、本多憲二。その本多から呑みに誘われた次の日は、必ず佐伯は寝坊をした。社員に示しがつかないと説教をして一ヶ月が過ぎようとしている。
 はじめは、体調が悪いと御堂は思っていた。だが徐々に遅刻する回数が増え、佐伯に問い質したところ本多から呑みに誘われていたことを白状した。
 何度も遅刻されては、流石に困る。
 思考錯誤を重ねて御堂が考えたのは、本多に誘われないよう佐伯を見張り続けるといシンプルなものだった。
 それから御堂は、オフィスでもあるAcquire Associationの上の階へと躊躇いもなく行くようになった。御堂が佐伯のマンションへ行くようになると、頻繁にあった本多からの誘いが途切れた。
 おかしなことがあると訝しがりながら、佐伯を見ていた。
(この部屋は、居心地がよすぎる。このままだと今度は、私が帰れないじゃないか)
 見張りのためだったはずの同棲が、いつしか住み心地のいい場所に変わっていた。それが悩みの種になると御堂とて予想がつかなかった。
 御堂が見張らなくても大丈夫だという確信はない。
 だが、そろそろこの部屋を出なければ離れるのが辛くなるだろう。恋人だから仕事以外でも顔を会わすことができても、頻繁に寝泊まりはできない。まだ一線を超えたくないのが御堂のいまの心境だった。
 寂しくなる一方、佐伯を独占する時間が増えた。メリットもあればデメリットもある。
「私は、いまの克哉に何かできることがあるのか?」
 脱衣場へつくとそんな疑問がでた。
 仕事も完璧な男にできないことはない。
「考えても無駄だな。だがもう少しだけ、ここに居させてもらおうか。そのくらいの我儘を言っても許されるだろう」
 薄い笑みを浮かべて、御堂は幸せをその場でじっくりと噛み締めた。



Fin
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